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【焼酎新酒コラム5】温泉メッカ・霧島市にある小さな蔵の焼酎が揃う樋高酒店。新酒の味ををラーメンにたとえると?

今回、鹿児島入りする元になった霧島市(きりしまし)隼人町(はやとちょう)にある「樋高酒店(ひだかさけてん)」。

霧島市といえば、霧島温泉郷に始まり、新川温泉郷(しんかわおんせんきょう)・妙見温泉(みょうけんおんせん)・日当山温泉(ひなたやまおんせん)……と天降川(あもりがわ)ぞいに魅力的な温泉地が展開する温泉の里。歴史も古く、小松帯刀(こまつたてわき)や西郷隆盛(さいごうたかもり)の紹介で、坂本龍馬(さかもとりょうま)が妻のお龍(おりょう)と日本初の新婚旅行に訪れた地としても有名だ。

「樋高酒店」があるのは、西郷隆盛が愛した日当山温泉から一駅、肥薩線(ひさつせん)と日豊本線(にっぽうほんせん)が分岐する隼人駅の駅前通り。改札から徒歩2~3分もあれば着いてしまうほど近くにある。
温泉&酒好きが立ち寄るのには絶好のアクセスの良さだ。

店内に入ると、焼酎がずらり!

樋高酒店 店内

ラベルを見ると、福岡あたりではなかなか目にしないものもいっぱい。日本酒も「獺祭(だっさい)」などの素敵な品ぞろえがきちんと冷蔵庫に入っているところに品質管理へのこだわりを感じる。

焼酎の試飲ができるように小さなカップが置いてあるのが、また気が利いている。
中の人は、うっかり車で来てしまったので、香りしか嗅げないのがつくづく悔しい。
お酒好きなら、JRで来るか下戸の人に運転してもらってきたほうがよい。

スコッチウイスキーのようにブレンドすることで毎年銘柄の味を調整する

希少な銘柄までも含めて本格焼酎100種以上を取り扱う店を切り盛りする若い店主が樋高将英(ひだか まさひで)さん。
九州では最高難関を誇る名門ラ・サールから早稲田に進学、大手ゼネコンに就職したという元はバリバリのエリートだ。
酒や焼酎をとりまく状況を危ぶみ、焼酎造りを守りたい、またその魅力を多くの人に伝えたい、との思いから実家を今のような酒店にした情熱的な経営者なのだ。

樋高酒店 外観 樋高将英さん

「鹿児島では、毎年新酒を楽しみにしている人は多いです。でも、そもそも新酒を【新酒】として製品化しない蔵もあるんですよ」
彼におしえてもらったのは意外な事実だった。

楽しみにしている人が多いのになんで?

という疑問はさておき、焼酎の作り方をおさらいしてみる。

収穫した芋を仕入れて最初にできた酒、これが焼酎の「原液」。新酒はこれを寝かせずにそのまま商品にする。
アルコール度数が高いため口に刺さる風味、場合によってはエグみのような味もあるが、その個性的な味を愛する人も多い。

新酒は3か月~1年ほど寝かす=熟成しながら不純物を取り除いていくのは前回説明した通りだ。

さてこの原液は、同じ蔵によるものでも樽や仕込み具合によって味が微妙に違う。
そこで、ここから銘柄の味になるようにブレンドするのだという。

つまり、芋焼酎の蔵元にはスコッチウイスキーのようなブレンダーさんがいて、焼酎の製品は、何種類かの原液を調合して味を調整して作り上げるものなのだ。

新酒は調整されないそのままの味となる。
つまり製品以前である、と商品化しない蔵もあるのだ。

「ただ、小さい蔵の中には、原液ほぼそのままを製品化するところもありますよ」

新酒が楽しみなお勧めの焼酎蔵を教えてもらう

そもそも、新酒は瓶に入っているわずかな空気に触れても酸化して熟成が進んでしまうという。卸問屋を挟むような大きな蔵だと、流通している間のタイムラグの間にも「新酒」でなくなってしまう恐れがあるというのだ。

小さな蔵は、といえば、概ね問屋をはさまず、小売りの酒店に直接卸す形式になっている。といって、どんな酒店にも卸してくれるわけではない。

焼酎蔵と小売店のつながりは、結婚のようなものです、と樋高さんは話す。
その家の娘(焼酎)に惚れ込んで、男(小売店)が、ぜひ嫁にほしいと親(蔵)に頼み込む。
最初は門前払い。
何度も何度も通って、誠意を見せてやっと扱いを許してもらえるのだという。

「丹精込めて作った焼酎を、丁寧に扱ってくれるかどうかを見極めないと置かせてくれないんです」

若い樋高さんは、門前払いされながら、めげずに何度も蔵に通い信頼を積み上げ、を繰り返して今では本格焼酎100種類以上を店に置けるようになった。
樋高酒店 店内

つまり信頼した小売店にしか、酒を卸さないような小さな蔵が、地元向けに少しだけ製品化するのが新酒、まさしく地酒・地焼酎の極みで、樋高酒店ではそれらを試飲しながら選べるという楽しさがあるのだ。

なお新酒を製品化している小規模な蔵のなかでも、樋高さんのお勧めは下記の通り。

塩田酒造 しおたしゅぞう  薩摩川内市・甑島(さつませんだいし こしきじま)
http://www.tanshikijyoryu-shochu.or.jp/archives/塩田酒造株式会社/
「六代目百合」は雑誌で識者の目隠し審査で1位になったことがある。

霧島町醸造所 きりしまちょうじょうぞうしょ 霧島市(きりしまし)
http://akarui-nouson.jp/
「明るい農村」が有名。蔵の見学をさせてもらえる開放的な蔵。

柳田酒造 やなぎたしゅぞう 宮崎県都城市(みやこのじょうし)
http://www.yanagita.co.jp/ 

大海酒造 たいかいしゅぞう 鹿屋市(かのやし)
http://www.taikai.or.jp/

小牧醸造 こまきじょうぞう さつま町
http://komakijozo.co.jp/

小正醸造 こまさじょうぞう 日置市(ひおきし)
http://www.komasa.co.jp/

焼酎の味の違いをラーメンにたとえる。さて新酒は

樋高さんのお話は面白い。
焼酎銘柄の種別をネスカフェ・スタバ・小さな自家焙煎の喫茶店に例えるなど独特ながら説得力がある。
新酒の味についても、ラーメンで例えてもらった。

芋焼酎…とんこつラーメン
麦焼酎…醤油ラーメン
米焼酎…塩ラーメン
芋焼酎の新酒は、といえば「長浜あたりの、臭いトンコツ」だそうだ。

なるほど、福岡の者には大変わかりやすい説明だ。
地元人でも苦手な人がいるあの匂い。でも好きな人にはたまらない、臭くてうまい味。

「芋臭さが出ていて、個性的。蔵の個性がもろに前面に出る。硫黄のにおいを感じるときすらある」
出来立ての焼酎には不純物やガスがまだたくさん含まれている。
それらが、尖った個性的な味をつくる。

あいにくの車移動で、飲めない代わりに香りをかがせてもらう。

樋高酒店 貴重な焼酎の有料試飲コーナー

この中では甑島の「六代目百合(ろくだいめゆり)」の香りがまったく異質だった。
(次編に登場する池畑さんによると島ゆえに水の違いが原因ではないかとのことだった)

3か月~6か月熟成させるうちに、それらが取り除かれて、ガスも抜けて丸くおだやかになる。
「若くて勢いがある味」と樋高さんが話す横から、お母様が「味が青いっていいます」とおっしゃった。
「人間と同じですよ。青二才ならではの良さを楽しむのが、焼酎の新酒です」

霧島の紅葉が赤くなる時期に味わえる、焼酎の新酒の青い味。

樋高酒店 並ぶ新酒と隼人町の特産の芋あめ

お土産に、隼人町の「芋あめ」をもらった。
「焼酎のおつまみに最高ですよ」
蒸留酒である焼酎には糖分がない。ライザップが減量中の飲み物として推奨しているともいう。
ゆえに、つまみには甘いものや糖質が似合うんだそう。
鹿児島の甘めの料理に焼酎があうわけだ!
特に同じ芋をつまみに飲むことを「親子飲み」というんだそうだ。

樋高酒店   ひだかさけてん

http://www.hidaka-store.com/
ネットショップもあるが、店頭販売限定ものもある。
鹿児島県霧島市隼人町内山田2-3-1
TEL0995-42-0275
営業時間:9:00-19:30
定休日:なし

【特別コラム】秋だけの「青い味」・芋焼酎の新酒を本場鹿児島で温泉とともに味わう

第1回 前書き 意外に少なすぎる!温泉宿で焼酎の新酒が味わえる宿

第2回 指宿酒造で訊いた新酒が旅をできないわけ・11月6日には新酒まつりも

第3回 芋焼酎の新酒が味わえる希少な宿の1つ・いぶすき秀水園宿泊レポ・前編

第4回 32年連続プロが選ぶNo.1のお料理はダシが絶品だった・芋焼酎とのマリアージュつまみは……いぶすき秀水園宿泊レポ・後編

第5回 温泉メッカ・霧島市にある小さな蔵の焼酎がずらりと並ぶ樋高酒店。芋焼酎の新酒をラーメンにたとえると?

第6回 日本一の品ぞろえ!鹿児島・天文館にある焼酎バー「礎」でついに焼酎を味わう

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