おんせんライターがこよなく愛する秘湯の宿。日本列島の各地に秘湯はあり、その多くは、自然の中で慎ましく源泉を守り継いでいます。どのようにしてその貴重な温泉を守っているのでしょうか。日本の温泉の真髄に迫っていきます。
秘湯の宿特集・第2回は、熊本県天草市・弓ヶ浜温泉の「大洞窟の宿 湯楽亭」。『白湯』と『赤湯』と称する2種類の源泉と、手掘りしたという洞窟風呂が自慢の宿です。先代・現会長の嶋田秀雄さんにお話を伺いました。
写真：フォトジェニックな洞窟風呂。まさか手掘りとは……
島原湾に面した弓ヶ浜海岸。四方を海に囲まれた天草のなかでも、有数のビーチとして知られています。この地で温泉宿を始めたきっかけを尋ねました。
「もともと海の近くの旅館というだけで、温泉はなかったんです。弓ヶ浜は県下でも名高い海水浴場だったんだけども、時代が変わって、海水浴のお客さんが減少してきて。そこで考えたのが温泉掘削なんです」
写真：透明な「白湯」は弱アルカリ性でなめらかな肌触り
「これは昭和50年代くらいの話なんですけどね。これからは温泉がないと、旅館業としてやっていけないということを考えまして、それでやったのが温泉掘削なんですよね。弓ケ浜海水浴場の弓ヶ浜会館の名称で宿の方もやってましたけど、温泉が出てからは、それにふさわしい宿名、湯楽亭に変えました。それが最初なんです」
この時の温泉が、『白湯』と呼ばれている最初の温泉となります。
「当初の温泉は33度くらいで少しぬるかったんです。お客さんが、温泉は熱いものだと思っているから、『これは温泉じゃない』と。これはいかん、ということで、旅館の建て替えと並行して、熱い温泉もなんとか獲得しなければ将来的には良くないわいと。だから熱い温泉を求めて、また掘ってみたんです。それがまんまと当たりまして、47度も出たんです」
それが1996（平成8）年、赤湯の誕生でした。1977（昭和52）年に湧いた白湯とはまったく異なる泉質で、2つの源泉を楽しめることとなりました。
写真：周囲の雰囲気も心地よい露天風呂
「それでそれからてんやわんやして、露天風呂を作ったり、場所が狭いから洞窟風呂でも作ったらどうかとか、そうしたらその洞窟風呂がとても評判が良くて、ちょっと掘っただけの洞窟だったんですけど、これは良いばい、と」
写真：電気工事以外はすべて手作りという
「（お客さんに喜んでもらえるのは）良かことだなと思って。もう少し大きな洞窟を掘ろうと思ったんだけど、業者に頼んだら莫大な金がかかる。その時私まだ54歳だったから、今（77歳）からするとだいぶ前の話になりますけど、自分で掘ったんです」
自分で設計して、自分で掘ったとのことですが、もともと建築や土木などのお仕事をされていたのでしょうか。
「若い頃は農業をしてました（だから土木建築が専門ではない）。外の長さの測量をして、中はこういうふうに作り上げるという図面をこう、自分で描いてですね、ただ掘るだけではインパクトがないということで、広く掘ったり狭く掘ったり、高さを低くしたりといろいろな工夫をしてみました」
写真：創意工夫で作られた洞窟
「小さな電動工具があるんですよね。水道屋さんなんかがちょこっと工事をするために使うような、道具ですね。それで掘って。でかいやつは、持ってる人間が、持ちこたえられんです。手で持てるくらいの工具でないと、作業が困難ですから。だから、手で持てる小さな電動のドリルでね。それでもって、半年くらいかかって作り上げたんです」
「電気工事以外は全部自分でやりました。中の掃除をするには勾配がないと洗い（排水）ができないから、勾配をつけてコンクリートで舗装しました。」
写真：露天風呂も家族で手作り
（後編へ続く）
（取材・文：前田ゆかり、編集：hotspring727）
