熊本地震による被害を受けて休業していた大分県由布院温泉にある名旅館「山荘わらび野」がこの2019年2月より全面建て替えでOPENに漕ぎつけました。そんな出来立てホヤホヤの山荘わらび野を、おんせんニュース中の人が見学してきました!
写真:熊本地震から3年かけて全面建て替え。2019年2月から営業再開した由布院温泉の山荘わらび野
前を知る人には驚き!モダンアートのような離れ
山荘わらび野は由布院の観光でにぎやかなエリアより少し離れた、閑静な場所に3500坪の広大な敷地を持つ旅館です。
中の人も昔泊まらせてもらったことがありますが、優しい雑木林に包まれた露天風呂を持つ離れは、それぞれが趣向を凝らした和テイストの空間。
「庭へと誘い出されるような空間」なんて記事に書いたことがあるくらい縁側から眺めるそれぞれの庭が、絵画のように美しかった。
写真:2005年ごろのわらび野。中の人のデジカメに保存されていました
スタッフも丁寧かつ心がこもっていてまさに、これぞ由布院!という宿の1つ、と記事に書くだけでなく知り合いにもおススメしてきました。
そんな「わらび野」が熊本地震で被害を受けてしばらく営業できない……と聞いたときは本当にショックを受けました。
さて、このたび地震から3年近い年月をかけて再建した「山荘わらび野」。全面建て替えというけどどんな感じなのかな、とワクワクしながら訪れたところ……。
……まったく別の宿みたいになってました!
前の「わらび野」を知る人は、たぶん私と同じ衝撃を受けると思います。
「全然、違う!」
駐車場から車を降りた段階でかなり驚くと思います。
写真:まるで現代アートの美術館に来たような新生・わらび野のエントランス
まるで現代アートの美術館に来たような、不思議なたたずまいがそこにはありました。
由布岳を望む広い敷地内には、そのものが現代アートのような、石造りのストライプの建物が点在しています。
前のような和風ではありません。日本的なものが一見何もない……ようにも見えます(実はあります)。
驚きながらエントランスを経て、食事処となる中屋敷、そしてお部屋を見学させていただきます。
写真:食事処の中屋敷。壁や床に日田石が敷き詰められている
離れになっているお部屋は、それぞれが広い敷地に点在する形になっているので、前より敷地を広く感じます。
建物を構成しているストライプが入った石……よく見ると節がある。実はこのストライプは、杉の型枠で作ったコンクリートだといいます。コンクリートなのに、木の風合いをまとって柔らかさがあるのです。
珍しい石貼りの床のお部屋も。使い勝手重視の水まわりに気配り
内部は、スタイリッシュ・シンプル・モダン。中屋敷もそうでしたが、壁や床は色調を統一した石張りになっています。石張りに使われているのは大分県産の「日田石」。今回のリニューアルで、わらび野には、他ではあまり見られない珍しい石張りの床のお部屋が登場しました。
写真:客室「かえで」は日田石による珍しい石張りの部屋
石張りでも圧迫感のようなものはありません。つまり石の質感に負けないほど広~い開放的なお部屋なのです。なにせシングルベッドなみの広さがあるソファー(畳でゴロゴロする代わりにここでゴロゴロするんでしょうね)を置いても、まだまだ踊れそうなくらい空間があります。
ちなみに日田石の床は今の季節は床暖房で温かいですが、夏になるとひんやりとした気持ちよさが楽しめそうですね。そして石貼りの室内では、木の建具や家具、そして大きな窓からの景色がいっそう引き立ちます。(木のフローリングのお部屋もあります)
写真:2階建てのメゾネットルーム「ひいらぎ」は2階から専用庭に出られる
前とはまったく違うモダン空間になりながらも、私の好きな「庭へと誘い出されるような空間」スピリッツは残っていました。コンセプトは「由布院の風景をまとう宿」とのことです。
なお、部屋にはミニキッチンがついています。水回りは深めのシンクを持つ洗面台など、宿泊者の使い勝手優先なところに好感。誰か寝れそうな広さのクロゼット付きの部屋があるなど、長期滞在を可能にしているのは今回のリニューアルによる新たな魅力ですね。
写真:温泉へと続く洗面台は大きな鏡つき。深いシンクの洗面台が機能的
冷蔵庫の中の水・ビール・サイダーは「まわりに何もないから」との無料サービス。そんな気の利いた心遣いも嬉しい!(冷蔵庫の中身はこの先、お客様の要望などで見直すかもしれないとのことです)
写真:「くぬぎ」はフローリング。おもてなしはテーブルの上のガラスの容器の中に入る菓子「カヌレ」で
露天ではなく大きく開閉できる窓で快適さを重視
わらび野といえば質のよい柔らかなアルカリ単純泉にも癒されたものです。
その温泉の佇まいも大きく様変わりしました。すべての部屋に温泉がついているのは前と変わらず、ですが露天ではありません。
露天ではなく代わりに窓を大きく開けられる内風呂にかわりました。湯舟に沿った窓をあければ露天状態で緑や景色、そよ風を楽しめます。(一部離れには露天風呂付きもあります)
写真:さくらのお部屋の温泉。開閉できる大きな窓がついて明るい上に気温調節自在なのが嬉しい
湯舟も日田石で統一しています。お湯はもちろん自家源泉の源泉かけ流し。ただし、大きな男女別の岩風呂は姿を消しました(素敵な露天だったので、中の人は少し残念です)。
そのかわり、客室の温泉はとてもゆったりしています。大人二人が手足を伸ばして、なおゆとりがあるくらいのサイズ。子連れの家族四人くらいならみんなで仲良くゆったりお湯に浸かれると思います。
写真:一部には露天風呂がある客室も。これは「椿」の露天風呂。湯舟の手前側にも天窓空間があり光が入る珍しいつくり
ソフト面は上質なわらび野の世界を継承。チェックアウトも1時間ゆったり
お食事は、暖炉がついた広いダイニング・中屋敷でいただきます。
わらび野のお料理といえば和を中心とした創作会席ですが、由布院野菜の甘さや香りが印象的です。豊後牛や豊後水道の魚といった主役達に負けない大人を魅了する印象がありましたが、それは変えていないとの嬉しい情報。
写真:由布院野菜の甘さが際立つ。素朴さと創造の融合がわらび野の料理の魅力
部屋食をやめて食事処にした分、さらに出来立ての熱々を供することができるようになり、味としてはさらに期待できるでしょう。
テーブル席なので、足がつらい人や外国人にも負担がかかりません。個室も3室あります。なにより窓が広くて明るいので、ここでいただく朝食はさぞかし美味しいことと思います。
写真:わらび野の朝食。緑が見える中屋敷での朝食はきっと爽やか
ところで、サービススタッフの制服に目が留まります。黒のロングワンピース。スカートがふっくらしていて、なんだかヨーロッパの修道院でお菓子作りに励む娘さんのようで可愛い!
着物のような衿あわせのあたりに、かつての作務衣の面影が残っているような。きびきび動くパンツスタイルのスタッフもいます。
震災後、すべてのスタッフはいったん解雇せざるを得なかったそうですが、3年後の再開にもかかわらず、何人ものスタッフが戻ってきてくれたといいます。スタッフが帰ってきてくれるところに、わらび野の、お客・裏方を問わない人間への誠実さが現れていると思いました。
なお、この再開よりチェックアウトの時間が1時間遅くなり、12時チェックアウトになっています。
一大変身を遂げた山荘わらび野。進化にも期待
雄大な由布岳を望む敷地、現代アート美術館のように様変わりした「山荘わらび野」。
実は今回のリニューアルでは、災害に対しての強固さが加わりました。お客様には見えませんが「癒し」を支える盤石さを重要視しての設計です。
お部屋や温泉といったハード面は前の面影なく一大変身となりましたが、お料理やサービスといったソフト面は、以前の温かさや安らぎをしっかりと受け継いで、進化しています。
(取材・文:おんせんニュース中の人)
写真:レセプションの2階には由布岳をのぞむカフェがある
写真:メゾネット・つばきの2Fベッドルームは天井が木。モダンながら癒しの空間になっている