温泉旅館で新酒を味わえる数少ない旅館の1つ、いぶすき秀水園(いぶすきしゅうすいえん)さんからの紹介で、指宿酒造(いぶすきしゅぞう)を取材。新酒についてのお話をうかがうことができた。
指宿酒造は、12月から咲く菜の花やイッシー伝説、大ウナギで有名な池田湖(いけだこ)の近くにある。
教えていただいたのは常務で工場長・製造部長の上川床浩行(かみかわとこひろゆき)さん。
創業1987年と思ったより新しい指宿酒造、もともと指宿の町の中にあった5つの老舗蔵が1つにまとまって、新しくこの池田湖近くに作ったのが今の会社とのこと。
鹿児島県では、県の指導で同様な蔵の合併で出来た焼酎メーカーが多いのだそうだ。
県内には10以上の蔵が合併してできたメーカーもあるんだとか。
合併、というとM&Aなどちょっとネガティブなイメージを想像してしまうが、焼酎蔵の合併はそれぞれの蔵のいいところや知恵を出し合い、さらに新しい味の研究開発などに力を入れられるなどメリットが多かったという。
「新酒は匂いがキツイけど、味がある。特に甘みがありますね」
と上川床さんは、今年の新酒を楽しみに待っている一人だ。
指宿酒造の焼酎。琉球からサツマイモを持ち込んだ焼酎の父「利右衛門(りえもん)」ブランドが有名。
そんな上川床さんに、新酒と通常の焼酎の違いをきく前に、焼酎の作り方をざっくりおさらい。
蒸留酒である焼酎は、原料の芋を麹で発酵させて、蒸留した液体を集めて作る。
「最初の1滴はアルコール度数70度もあります。それが蒸留が進むにしたがって水分の割合が多くなり、最後のほうは10度くらいになります。最初のほうと最後のほうを自然にブレンドした状態が焼酎の原液で、だいたいアルコール度数は37~38度あります」
この原液=原酒=新酒には、ガス成分と油が含まれている。
それを3か月~半年、タンクに置いて適宜混ぜるなどをすることで、徐々にガス成分と油が抜けてまろやかになっていく。これを熟成と呼んでいる。
「タンクに置いておくと、油などの不純物が浮いてきて、膜が張ったようになるんですよ。それをね、すくいとる。それを繰り返していくうちにきれいな焼酎になる」
まるで煮物のあくとりですね、というと「そんな感じで不純物を取るんですよ」とおっしゃった。
それにしても原料の芋にはほとんど油脂は含まれていないはずだが?
「芋には油分はありませんが、麹は米ですから、油が含まれてるんですよ」
なるほど!
抜けていないガス分と油分のおかげで、新酒は鋭い尖った味、芋臭い味がするという。
そのクセの強い味、フレッシュさを愛する人も多く、上川床さんもその一人だ。
そんな魅力的な新酒の味は、遠くに運ぶことで損なわれてしまうともいう。
「瓶の中にね、少し空気があるでしょ」
と上川床さんは、焼酎瓶の上を指さす。
「この空気でね、新酒の中に含まれる油が酸化すっとですよ」
新酒に魅力的なクセ・個性を与えている油の酸化が、瓶に含まれるわずかな空気で時間が立てばたつほど進んでしまい、それが嫌な風味になってしまうんだそう。
ゆえに新酒は、産地である地元で出会うのが最良なのだ。
ところで、新酒の逆の、焼酎の古酒ってあまり聞かないが……。
「焼酎は6年置いておくと、味がまた、変わりはじめます。
10年物になると、ストレートで呑んでもおだやかな丸い味わいになります。こちらも美味しいですね」
それも美味しそう。
ただし、製品で古酒というのは作っておらず、誰かの家の蔵のかたすみに「そっとしずかに」置いておく、
それが思わぬ長期熟成を経て大変なおいしさになるんだそうだ。
自分で長期保存しておくなら、ワインセラーなどの冷暗所に置いておくのがよい。
もちろん、新酒は新しいうちに飲み切ってしまうのがベスト。
上川床さんが持っている大きな焼酎瓶は、2.5升分!
一升が「一マス」であることにかけて、「ますますはんじょう(升升半升)」という商売繁盛の縁起物だという。
なお、指宿酒造では2016年11月6日(日)に新酒まつりを開催。
新酒のふるまい酒(無料)や、さつま揚げに、芋の天ぷら「がね天」、黒豚や鹿児島牛の串焼きに人気のコロッケなどの人気グルメが集合。
先着500名にプレゼント進呈があるほか、40型液晶テレビがあたる無料抽選会やステージイベントもいろいろ。
また、限定の新酒「四十二度(ひがつっど)」も先着順で販売するので貴重な新酒GETのチャンスだ。
ふるまい酒を楽しみたい人のために、指宿駅などからシャトルバスも運行される!
http://www.riemon.com/ 鹿児島県指宿市池田6173番地1 Tel/0993-26-2277 <第6回 利右衛門「新酒祭」> 開催日時:2016年11月6日(日) 11:00~15:00※雨天決行
【特別コラム】秋だけの「青い味」・芋焼酎の新酒を本場鹿児島で温泉とともに味わう
第1回 前書き 意外に少なすぎる!温泉宿で焼酎の新酒が味わえる宿
第2回 指宿酒造で訊いた新酒が旅をできないわけ・11月6日には新酒まつりも
第3回 芋焼酎の新酒が味わえる希少な宿の1つ・いぶすき秀水園宿泊レポ・前編
第4回 32年連続プロが選ぶNo.1のお料理はダシが絶品だった・芋焼酎とのマリアージュつまみは……いぶすき秀水園宿泊レポ・後編