前編・芋焼酎の新酒が味わえる希少な宿・いぶすき秀水園宿泊レポ
いぶすき秀水園のお食事は、伝統的な温泉旅館ならではの朝夕お部屋食が可能(通常は個室食事処)。
出来立て提供、匂い残りなどの観点から、個室食事処もいいのですが、私の個人的な感覚では、やっぱりお部屋食は魅力的ですね。
いかにも温泉の旅館に泊まるってカンジがするじゃないですか。
それに一人旅だと、テレビという日常娯楽に触れながら、非日常的な豪華なお食事を自分のペースでゆったり、というのがなんともいえません。
その分、食事開始の時間を約束したりといった制約はあるのですが、でも好きです。
また、プライベートスペースに何度も担当のスタッフが入ってきますので、彼女との相性も寛げるお食事にはとても重要です。特に一人旅だとね。
私の担当の女性(下の名前で呼ぶところが、またそれっぽい)はその点、明るい感じで楽しい時間が過ごせました。
驚くべきは、夕食もその翌日も同じ方だったこと!思わず長時間労働を心配すると、
「ちゃんと長めの中休みがあるんですよ」とにっこり。
そうなんだ、ああ、よかった。
だけど、つまりは、私のお部屋には担当スタッフ一人しか足を踏み入れない、というサービス的にも伝統的な日本旅館の流儀を守っているわけです。
と、前置きが長くなりましたが、お待ちかねの夕食タイムの始まりです。
お風呂上りのところてんの出来から期待はMAXに膨らみます。
本日のお品書き。
取材対応していただいたスタッフによると、ちょうどこの時期は端境期で「少し中途半端なんですよね」と残念そう。夏は涼やかな夏しつらえが自慢、冬は「柿釜のふろふき焼き」という名物料理があるそうだからだそうです。
端正なたたずまいの前菜。
ごちゃごちゃせず、味も「和」で統一しているところに自信が感じられます。
安定の美味。
と、今回の取材のメインである芋焼酎がやってきました。
利右衛門黒、利右衛門白、それに宿オリジナルの秀水の3種飲み比べセットです。
スタッフさんがいうには、黒が一番個性的だそう。香ってみると、なるほど明らかに黒だけ香ばしさが強い感じがしました。利右衛門白と秀水はあっさりしていて飲みやすい感じが似ている系統かと感じました。
ネットで製法をみると利右衛門黒は二種類の黒麹を使った「あわせ黒」なんだそうです。
お造りは、嬉しい重箱重ね。
九州風の醤油と関東風の醤油の2種類、それにポン酢、酢味噌が用意されています。
いちおうきびなごには酢味噌、鯛にはポン酢とおすすめはあるのですが、食いしん坊はどれをつける迷います。
お造りはやっぱり日本酒がほしいかな~と習慣で思いましたが、お酢系の甘めのタレに芋焼酎が素敵に合います。キビナゴ酢味噌と利右エ門白があうとことさら口の中が華やかな風味になり「もっとほしいな~」と思いました。
次のお椀。
「日本料理の実力は椀に出る」と漫画「美味しんぼ」で言ってたか言ってないか……。
ダシが絶品です。
後に続いた料理でもそうなのですが、秀水園のお料理は、とにかくダシがうまい、ということにつきます。
極上特上のカツオだしは滋味深いという言葉がとっても似合う。
ダシの素晴らしさをスタッフさんに褒めると、料理長さんは京都で修業されている、とのことでした。
また、考えてみれば南薩地方は、極上のカツオぶしの産地。
このとにかく美味しいダシは、ご当地の名物に、京都で磨かれた板前さんの腕のコラボ。それがこの天国のようなダシを生んでいるのでしょう。
贅沢なカニしんじょなのに、完全にダシを味わうための引き立て役状態だったのが印象的でした。
(フワフワのしんじょ地がダシを吸って美味しかった)
クリームのような濃厚な味噌が美味しい黒豚。これまた美味しい。自宅では作れない美味しさ。
黒豚には黒麹があいます♪
あわびの素味噌焼き。
スタッフさんは「味噌、味噌と続いて申し訳ありません」といっていたけど、豚のはまるで生クリームみたいだったので、まったく違う風味。全然OK。
なお、アワビのほうは本当に味噌。香ばしくてうまかったです。
焼酎には醤油味より味噌味のほうがあう気がします。
こってりトロリとしたショコラにブラックコーヒーがあうように、こっくり濃厚なみそ味は焼酎にあうのです。美味しさを膨らまして、最後に後味を引き締めて、また食べたくなる。そんな感じです。
ホタテ団子と肉団子が入った鍋。これもダシが美味しい。ご飯があったら、このダシかけて食べたらどんなにうまかろうと想像。
最後の〆。美味しい白ご飯と赤だし、そして香の物。
ここまででまだ焼酎は少し残っていたけれど、最後にとんでもないマリアージュを発見しました。
「盛り合わせ」としか書いていない香のもの。
真ん中上部にある黒い物体。桜島大根の焼酎漬け。
甘くてちょっとお菓子みたいなのですが、これが焼酎にあう!
あんまり美味しいので、3ミリずつかじって大事に大事に味わいましたが、なくなったときの寂しさ。。。
「お代わりできませんよね?」と聞きましたがもちろんダメでした。あ~あ。
食事がおわると、フロントに電話をして、片付けてもらい、お布団をしいてもらいます。
最近はスマホ見ながら寝る人も多いせいか、布団を敷く場所もちゃんと聞いてもらえる心づかいが嬉しい。
それにしてもお着物をきてお布団敷きのような動きをしてまったく乱れないって、プロの仕事ぶりに感心します。
夜食に、との心づかいのお汁粉。胃にもたれないように豆だけのシンプルなもの。美味。
さて、翌日。
温泉に、ざばっと浸かり頭をはっきりさせます。
この朝湯あがりに、お部屋のベランダで朝の海眺めながら冷たいお水をいただくのが、気持ちよかった。
お腹もすいたところで朝ごはんです。
昨日と同じスタッフさんがお布団をあげてくれて、朝食の準備を整えてくれます。このなんにもしなくても、テキパキ整っていく感じ、胸がすくようです。
毎朝こうだといいのにな~、なんて思ったりして。
朝ごはん。
鹿児島らしくさつま揚げが嬉しい。そして絶品ダシが使ってあるとろろ、これも美味しい。朝から力が付きそうです。
のんびり朝ごはんをいただいた後、出発です。お部屋からフロントまでまた荷物を持ってもらえました。普通、帰りは自分で、と暗黙のお宿が多いので、そのサービスには本当に頭が下がります。
なお、コーヒーをのむとしたらラウンジにて別注文になります。
車を玄関先までまわしてもらえます。(車、ちらかってたのでやや恥ずかし)
そしてスタッフの皆様のお見送りでお宿を後にしたのでした。
和服を着た一人の担当スタッフによる朝夕部屋食でのおもてなし、源泉かけ流しの濃い温泉、そして絶品のダシが土台にある美味しいお料理。
歯ごたえが気持ちいいところてん、ウッドデッキのベランダ焼酎と桜島大根のマリアージュ。
建物(インテリア)・おもてなし・料理……すべて端正な、昔ながらの日本旅館の上質さそのまま、懐かしく迎えてくれるお宿でした。
おもてなしの根っこの部分を大事にしているからかもしれません。
お料理の、ダシの美味しさがそれを一番象徴しているようでした。あのおダシは、本当に美味しかったなあ。。。
私のような昭和時代に育った人には、宿のつくりとかおもてなしに、特に懐かしさを感じる素敵な宿だと思います。
標準チェックイン/アウト 14:00/10:30
【特別コラム】秋だけの「青い味」・芋焼酎の新酒を本場鹿児島で温泉とともに味わう
第1回 前書き 意外に少なすぎる!温泉宿で焼酎の新酒が味わえる宿
第2回 指宿酒造で訊いた新酒が旅をできないわけ・11月6日には新酒まつりも
第3回 芋焼酎の新酒が味わえる希少な宿の1つ・いぶすき秀水園宿泊レポ・前編
第4回 32年連続プロが選ぶNo.1のお料理はダシが絶品だった・芋焼酎とのマリアージュつまみは……いぶすき秀水園宿泊レポ・後編