熊本地震被災から3年。阿蘇の地獄温泉が2019年4月16日(火)より、いよいよ日帰り入浴を再開します!再開するのは温泉の一部「すずめの湯」。水着(湯あみ着)着用の混浴になっての新生・地獄温泉清風荘を改め、地獄温泉青風荘.の「すずめの湯」を取材、現地にて地獄温泉の河津 謙二さんにお話を伺いました。
写真:あれから3年。やっと地獄温泉に再会できる!
熊本地震に続く水害で大被害を受けた地獄温泉
九州を代表する濁り湯といって間違いない阿蘇山中腹にある地獄温泉。ここが熊本地震による被害で休館となったのは3年前になります。
地震による被害だけでなく、その年の夏に襲われた水害により、建物や敷地の被害の他、アクセスするための道路も寸断されてしまっていました。
そこからの復活の第1章となるのがこの2019年4月16日に再開される「すずめの湯」の日帰り入浴開始です。
以前・2017年のレポートでも紹介した通り地獄温泉を代表する「すずめの湯」は地震・水害の被害にほぼあわず源泉も湯舟も奇跡的に残っていました。
※前回レポ※
【熊本地震1周年・地獄温泉訪問特別レポ】すずめの湯は本当に喜んだ~地獄温泉が天国になった1日~●南阿蘇村・地獄温泉清風荘【復興中】
https://onsennews.com/jigoku-onsen_special_report/
2年かけて、被害にあった周辺の整備や道路開通など、一般客を迎える準備がやっと整ったといいます。
写真:4月3日のようす。急ピッチでお客様を迎える準備が進むすずめの湯
写真:新しいすずめの湯の脱衣所外観
再開するにあたって、入浴スタイルがかなり変更になりました。
1.水着あるいは湯あみ着着用となった
「すずめの湯」といえば、混浴の露天風呂で有名でしたが、混浴に抵抗があるひとが多いのも、今の時代。そこにあわせて、思い切って水着や湯あみ着着用としました。
「ヨーロッパのスパのような、開放的なスタイルを想定しています」
と河津さん。
写真:水着着用で、混浴を性別に関係なく楽しめるようになる
ヨーロッパでの湯治は、裸ではなく水着。広い湯舟は男女、家族みんなで和気あいあいとした社交場のような感じ、と中の人は、前に受けた温泉観光士の講義を思い出しました。
たしかに2017年の特別入浴の時は水着でしたが、女性としては変な心配しないでいい分、リラックスできて楽しかったですね。
(伝統的な、裸での混浴がなくなることを残念がる方も多いそうですが、多くは男性だとのことです……)
水着着用は、LGBTのお客様や、タトゥーがある人などにも敷居が低くなるのもよい効果だといいます。
2.湯舟に仕切りがなくなった
すずめの湯のぬる湯側の湯舟の中に、まるでおでん鍋のように仕切りがあっていろんな温度があったのですが、それがなくなりました。
「仕切りがあると、その仕切りの中の一画が狭くなり、その中にどなたかお客様がいると、他のお客様が入りにくい感じになりますので…」
すずめの湯しかない状況での営業再開なので、できるだけ多くのお客様に遠慮なく入ってもらいたい、という事情ゆえに仕切りの撤廃となりました。
写真:湯舟の中の仕切りがなくなったすずめの湯。真ん中の石は土石流で流れてきた巨石だという
3.水風呂が出来て交代浴が可能に
すずめの湯のすぐそばに、水風呂の露天風呂ができました。温泉と冷水の交代浴ができるようになったのは大きな魅力ですね!なお、水風呂で使われている水も、温泉成分が含まれている鉱泉なんだそうです。お肌が引き締まりそう!特に夏などは気持ちよさそうですね。
写真:水風呂で交代浴ができるようになるのは大きな魅力!
4.明るい脱衣所には鍵付きロッカー
写真:木造りの明るい脱衣所。男性用脱衣所の天窓からの山の緑に心洗われる
新しい脱衣所は内湯と別室になりました(今までは内湯の片隅に脱衣場所がある感じだった)。
新しい木づくりの脱衣洗面所には天窓があり明るい雰囲気。そこには鍵付きロッカーと洗面台ができました!ロッカーも木で出来ていて、ナチュラルな雰囲気です。
なお、内湯は今まで通り、シャワーはなく水道のカランのみとなります。
写真:地獄温泉の内湯(上・中・下3枚合成)
写真:左は新しいすずめの湯の内湯。右側は以前の内湯。
5.内湯と露天の間に休憩所ができた
脱衣所がある建物から露天に出る場所に、椅子とテーブルがある休憩所ができました。つまり、温泉内の休憩所。水着のまま水を飲んだりおしゃべりしたりしながら湯のほてりを冷ませるリラックススペースとして活用できます。
写真:内湯(脱衣所)と露天のあいだにある休憩所
水風呂や休憩所など、のんびり「すずめの湯」を満喫できる工夫がこらされたリニューアルになっています。
このGWなどは待ちわびた多くのファンが殺到しそうですが……
「もしもお客様が多くて待ち時間などになった場合は、敷地内の見学ツアーを考えています」
地震の被害や復興状況について、河津さん一家が語り部として案内してくれるのだという。
あの日から、地獄温泉を訪れた人は報道関係者・ボランティアなど一部にすぎませんでした。多くの地獄温泉ファンにとっては、今の地獄温泉の状況は気になるところ、それを現物を見ながら教えてくれるというのだからありがたいですね。
2020年4月16日のグランドオープンを目標に
このたび再開に漕ぎつけた「すずめの湯」ですが、宿泊棟などの復興状況についてもお伺いしました。
「大浴場をすずめの湯の上に作っています。これは今年のお盆前、遅くても秋までにはOPENしたいと考えています」
紅葉の時期には、すずめの湯のほかに大浴場も再開!これは嬉しいですね。
「年内にはエントランスとレストラン、来年(2020年)2月ごろには宿泊棟も完成させたいですね」
宿泊棟はキッチン付きで格安で泊れる自炊棟から、数万円の離れまで、いろいろなタイプ・価格帯のお部屋を考えているそう。
地震に耐えた母屋と曲水庵は生き残った建物を生かします。
「壊して建て替えた方が安いのですが、やはり地獄温泉のシンボルですので。改修にあたっては、サッシ窓は木枠に変えるなど、前以上に歴史を感じられるように仕上げたいですね」
朝ごはんで人気だった、曲水庵の囲炉裏テーブルもちゃんと復活するそうですよ。
写真:地震や水害を耐えて生き残った母屋。2020年のOPEN時には趣を増す予定。
新しい地獄温泉は、日帰りはもちろん、宿泊も気軽な湯治から記念日まで何度も訪れたくなりそうですね。グランドOPENは2020年4月16日が目標。
「4月16日という日にちにはこだわっています」
と河津さん。
今回の「すずめの湯」再開も4月16日。4月16日はあの熊本地震の日、悲惨な記憶を新しい輝かしい再出発の記念日として上書きしたい。そんな思いが「4月16日開業」へのこだわりにつながっています。
2月の建物完成後は関係者や村の方をモニターとして招待して、念入りに何度もオペレーションをチェックしてから、グランドオープンとしたいそう。
「なにせ、私たちは【開業】というものをしたことがないものですから」
というさりげない言葉に江戸時代から続く歴史の重みが隠されています。
連綿と江戸時代から「受け継いできた」歴史ある湯宿。河津一家は、代々受け継いでいるので、新規開業の経験はない。
そんな地獄温泉の歴史を断ってしまったのが、あの二度の大災害でした。
なお、この再開をきっかけに屋号の表記も「清風荘」からさんずいをはずした「青風荘.」に変更しています。
特にひどかった土砂災害、屋号から「水分」を少なくした、といいます。
新しい屋号の表記には、災害に負けず新しい歴史をつなげていくという祈りが込められているかのよう。
この春、新しい地獄温泉の歴史が始まる、その第1章である今回の「すずめの湯」の再開を応援せずにはいられません。
(取材・文:おんせんニュース中の人)
写真:新しいすずめの湯の湯舟のまわりにはウッドデッキを敷き詰めて歩きやすくなった。右はコーヒーの木を温泉で育てているところ。近い将来地獄温泉育ちのコーヒーが誕生予定だとか