習慣でかつての玄関に入ろうとしてしまった!
自動ドアの痕跡を残したラウンジ的な空間、その隣に新しい玄関が――。
古湯温泉・鶴霊泉。砂から湧き出るぬる湯の源泉で有名な老舗の旅館、来るのが少し空いてしまった間に大変身を遂げていました。
ご主人の小池さんにお話を伺うとまさに「3年計画」での、コンセプトからの大変身が今年8月に仕上がったところでした。
鶴が見つけてくれた神秘の湯、それが「鶴霊泉」のそもそもの由来ですが、このたびのリニューアルでは、そのコンセプトワード【鶴】に象徴される「長寿」「お祝い」を空間やおもてなしにも反映させています。
一番わかりやすいのが、客室でそれぞれ「古希」「喜寿」「傘寿」とお祝いの節目や「鶴」「亀」など長寿を祝う風物の名前がつけられています。
昨年リニューアルされた庭園が見える3室。
鶴が身にまとう色である「赤」「白」「黒」でデザインが統一されていてお洒落です。
「古希」…黒。お寺、というか書院的な配色。外国人に人気のお部屋だそうです。窓の緑がより鮮やかに見えるかも。
「喜寿」…白。日本人に人気だとか。白と中間色の木の色がナチュラルテイスト。
昔の古い木材と新しい木とでグラデーションにするなど細部に凝っています。
畳がお茶色の市松なのもかわいい。
「傘寿」…赤。この配色、ちょっとフランスのホテルとかで見かける感じ。あくまでお和風なのに、ヨーロピアンぽい。お洒落です。
この部屋は洗面台が一番広いです。
この3色のお部屋はいずれからも、春には桜の古木が見事だそうです。
これらのお部屋、昔ながらのお部屋に比べるととてもスタイリッシュで若々しい雰囲気なのですが
「若い人に寛いでもらいつつ、次に来るときは恩のある人……例えばご両親やおじいちゃんおばあちゃん、または先生でも。
そんな方々を連れてきてほしい」という思いが込められているといいます。
実際、そんなご主人の思いが伝わって「恩返し」に恩人を招待するリピーターが年々増えているといいます。
福岡市中心部から50㎞と距離が近いというのも、高齢の恩人を連れてくるのにはちょうどいいのかもしれませんね。
地下(といいつつ、窓からは明るい風景が見える)の部屋は、根を張る植物にちなんで「松」「楠」の名が。お子様連れにはいくら走り回っても大丈夫なこれらのお部屋が人気です。
特に「楠」の部屋にはダンスレッスンでもできそうな、桜の木のフローリングの広い空間が。
そして今年完成したのが、プレミアムスイート「鶴」。
18畳のフロアは赤・黒・白を基調としたデザイン。展望貸切風呂では源泉を楽しめます。
そして25年前に高円宮が宿泊された貴賓室「亀」。
唯一、庭園・嘉瀬川・山を望めるお部屋にも展望貸切風呂を新設しました。二方向が開けた明るいお風呂は露天気分でゆったり。
3年前にリニューアルの先鞭をつけたのがお食事処。ここを手始めにリニューアルを進めてきました。
鶴霊泉の名物である斉藤茂吉の代表歌碑がある日本庭園は、先々代の館主が造り上げたものですが、これを眺めながら食事ができる個室食事処をしつらえました。
嘉瀬川の清らかな流れを借景とし、春には130年の老桜が咲き、初夏には蛍が飛ぶこの庭は、夕食時には色が移り変わるライトアップで照らされます。食事処の壁の黒とあいまって幻想的かつおちついた大人の雰囲気になります。
以前は部屋食でしたが、今はあえて部屋食は行っていないとのこと。
それはこの日本庭園を眺めながら、非日常感の中で食事を味わってほしいというこだわりから。
はじめのうちは古い常連さんから怒られることもありましたが、代わりに喜んでくれるお客様が今では多いそうです。
一人旅だとテレビが見たいのでは?という問いかけに、
「一人旅のお客様の場合は、テーブルを庭に向けます。ゆったり寛いで味わっていらっしゃいますよ」。
なんと、カウンター状態にしてくれる!いいなあ。
この食事にもこだわりがあり、最後は必ず大なべになります。
一人仕立ての小鍋ではなく、必ずグループ人数分の大なべを用意するんだそうです。季節にかかわらず。
それは同じ鍋のものをいただくことによる、親しみ感・連帯感を大事にしたいという思いからです。
A5ランクの佐賀牛をはじめ、佐賀県のブランド豚・鶏、そして海鮮の4種類の鍋から選びます。
取材の最後は、ご好意で砂湯に入らせてもらいました。
ここも今年リニューアルした部分のひとつ。
ただし、砂湯の湯船は絶対に変えるな、という先代の遺言があり、湯船は変えていないとのことだったのですが。。。
以前を知っている私から見ると、びっくりするほどの大変身でした!
内湯と砂湯の間に、壁というか門のような仕切りができています。
そのおかげか全体的に暗くなっています。
(開放感という点でいえば昔のほうが広く感じました)
ただ、全体的に石造り風でブルーライトなどを使っているせいか、ちょっとヨーロッパの僧院を思わせるような、幻想的な雰囲気になっています。
それでも、お湯の感触は昔通りの懐かしいものでした。
上から注がれるお湯と、柔らかい砂の下から湧き出てくる清水(ぬる湯?)が、湯船の中であったかい部分とぬるい部分の感覚的マーブルになっている。そんな中、好みの定位置を探すのがやっぱり楽しい。
鶴霊泉の源泉成分表はこちら
手前が循環加温した湯船で、砂湯がぬるい源泉の湯船なのですが、かわりばんこに入る交代浴がなんとも気持ちいい。
水風呂ほどまで温度差が過酷ではないので、心臓に負担もかからず、かつぬる湯を仕上げにすれば湯上りにのぼせることもない。
また敏感肌だと、あんまり皮膚を温めすぎると痒くなってしまうことがあるのですが、37℃くらいだとそんな心配もありません。長~く浸かっていることによって、温泉の効果がじわじわ体に浸透しそう。
いつまでも浸かっていたくなるこの砂湯が存在する限り、鶴霊泉という温泉宿は、訪れるお客さんの生命力をよみがえらせながら、自分自身も新しい風を取り入れながら、よみがえり続けるんだろうなあ、なんて底の砂を掬ってサラサラ湯の中に解き放ちながら考えました。
生きてたらおじいちゃんおばあちゃんを連れてきてあげたかったな~。
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