2019年10月、未曾有の勢力で上陸した台風19号(令和元年東日本台風)により、千曲川が決壊し、長野新幹線車両センターが水没したことが全国的にも衝撃的なニュースとなりました。実は、被害を受けた鉄道はそれだけではありませんでした。
同じ千曲川を渡るローカル線の上田電鉄別所線。そのシンボルだった赤い橋も崩落してしまったのです。
被害は新幹線だけでなく……あの赤い橋が落ちた
写真:千曲川の堤防がえぐれ、橋梁が崩落した
写真:荒々しい濁流の前に、堅牢な鉄橋も無残な姿に。住民は胸を痛めた
別所線の赤い橋とは?
北陸新幹線の停まる上田駅から、信州最古の温泉といわれる別所温泉までをつなぐ別所線。
上田駅を出発するとすぐ千曲川を渡り、田園風景の中を走っていくのですが、その千曲川橋梁(鉄橋)の塗装が、とにかく赤い。この赤は、真田氏の赤をイメージしたとされています。
この千曲川橋梁は1924年に完成した鉄橋で、近年では2010年に塗装が施され、ひときわ鮮やかに。
周りは連なる山と川、そして田園という中でひときわ目立つポイントとして、ひとつの風景を作り上げていました。
写真:台風以前の鉄橋。広い河川敷には草木が生え、橋は川面よりはるか上にあった
写真:赤い橋にカラフルなデザインのラッピング電車が映える
人々から愛され続ける、奇跡のローカル線
別所線は、これまで数々の廃線の危機を回避してきた、スゴイ路線でもあるのです。
1970年代、モータリゼーションの流れで廃止の危機→沿線住民の反対運動などもあり公的補助で存続決定。
1986年には、長く愛された「丸窓電車」など旧型車を全廃し車輛保守にかかるコストを削減。設備改善などの努力もあり乗客が再び増加に転じ、1990年代半ばには当初の存続危機の際の利用客数にまで回復!
この地域のほかの路線は残念ながら廃止となったのですが、別所線だけは生き残ったのです。
写真:別所線のシンボル、丸窓電車は1986年まで58年間もずっと現役で走っていた
写真:旧丸窓電車をイメージした「まるまどりーむ号」
2000年代には少子化による通学客減、景気低迷による観光客減で再びの危機。
そこで、地域住民などによる支援団体「別所線の将来を考える会」「別所線電車存続期成同盟会」「別所線の存続を求める市民の会」などが相次いで発足。
支援団体を取りまとめる「別所線再生支援協議会」には、25もの団体が加盟しているというから驚きです。
なかでも「別所線電車存続期成同盟会(上田市アイプロジェクト)」は、上田市役所職員有志が立ち上げ、ほぼ公的に活動しているというのもさすがですね。
がんばろう上田! 別所線存続&赤い橋復旧にむけた支援活動
住民の足であり、ふるさとの風景そのものであり、地域の宝・別所温泉への観光の足でもある。
そんな尊いローカル線。熱い存続運動の甲斐があり、国費での橋の復旧と、市の保有が決定しました。
写真:学生団体「別所線かけはしプロジェクト」による中吊り広告が車内に掲出されている
写真:地元大学に通う学生たちが応援メッセージと広告料を募り、メッセージをデザイン化。見る人の心を打つ
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「別所線かけはしプロジェクト」
乗って応援しよう!
2020年3月現在、赤い橋は解体され、検査を行ったところ、鉄骨自体は再利用できる見込み。2021年春の復旧を目指しているそうです!
上田駅から城下駅までは、代行バスが運行中。
城下駅から終点の別所温泉駅までは、これまで通りの別所線に乗ることができます。電車は、塩田平の田園の中をゆったりと走ります。
写真:上田藩の穀倉地帯といわれた塩田平。通常は全国でも雨が少ない地域なので、ため池がたくさんあります
別所温泉までは少しカーブや勾配もあるのでスピードは出ませんが、そのおかげで旅情を誘います。
終点、別所温泉駅は駅舎もかわいらしく、桜の季節はとくにおすすめですよ。
写真:桜の咲く別所温泉駅
写真:八木沢駅のベンチも素敵なフォトスポットに
信州の鎌倉と呼ばれるエリアを散策したり、ひとり150円という驚異の温泉(3カ所ある共同浴場)に浸かったり、ひっそりと点在するカフェやギャラリーを訪ねたり……、心豊かな旅ができることでしょう。
こんなグッズも発見!
写真:赤い橋と別所線、桜が模された逸品
ブックスタンド「丸窓ぽんて」3850円。
https://www.uedadentetsu.com/news/post_418.html
このブックスタンドは、被災後に上田市の板金業者・オアシ工業が企画・制作。その品質の高さから、「ふるさと納税 返礼品」として、上田電鉄から提供されました。
販売を希望する声も多く、別所線の上田駅と別所温泉駅の窓口で発売(駅スペースの都合上、少量ずつ入荷されるのでHPのお知らせを要確認)。上田を訪れた記念に、お土産にいかが。
もちろん、上田駅から徒歩圏内の上田城の桜もお見逃しなく。余談ですが、廃線となった路線の軌道跡が上田城の二の丸の堀にあり、現在はケヤキ並木となっていて、散策可能。新緑の季節もおすすめです。
(まとめ・文:前田ゆかり)