アイヌの恋人たちが、思いを貫くために身を沈め、その魂がまりもに変化したという伝説をもつ阿寒湖。「阿寒湖まりも夏希灯」は、まりもに見立てた緑の灯り球にパワースポット・阿寒湖のへそで願いを込め、湖面に浮かべるというイベントです。
緑の明かりが美しく照り映える湖の、ナイトクルーズのひと時を愉しめます。
写真:夏希灯の明かりに誘われる、ナイトクルーズの船内
アイヌ文様の輝く夕暮れの逍遥を楽しみながら 桟橋へ
日が沈み、ゆっくりと夜のとばりが下りてきた頃に、桟橋へ向かいます。
出航は、温泉街を抜けた湖のほとりにある、まりもの里桟橋と幸運の森桟橋の二カ所から。ふたつの桟橋をつなぐ遊歩道は、アイヌ文様が描かれたランタンにやさしく照らされ、湖を渡る風が心地よく吹き抜けます。
小径を散歩しながら向かえば、魅惑的なショートトリップへの期待がさらに高まりそうです。
写真:写真:トーラサンペ ル・ミナ(まりもの微笑み小径)と呼ばれる湖岸の遊歩道
パワースポットで 希い紙に想いをしたためるひととき
あらかじめホテルなどで購入したチケットと引き換えに、手のひらサイズの球のカプセルと、緑のLEDライト、そして希い紙(ねがいがみ)というカードを受け取って、いざ船へ。
遊覧船のましゅう丸は、総トン数が188.31トンの大きな遊覧船です。乗船可能な人数は355名ですが、夏希灯では約半分の200名を定員としているため、ゆったりとした空間で過ごすことができます。1階、2階ともに船室があり、2階後方の1/3ほどは、ひろびろとしたデッキとなっています。
夜は冷え込む日もある、北海道の夏。オープンエアで過ごしたい方は、体を冷やさないように長袖の上着をはおるのが、お勧めです。
写真:写真:夏希灯の明かりと、アイヌの物語が刻まれた希い紙
恋人たちの伝説のアナウンスに耳を傾けながら、船は水深44メートル、阿寒湖が最も深い場所へ向かいます。そこは、湖一番のパワースポットといわれる、阿寒湖のへそ・カムイラム(神の心)と呼ばれるポイントです。
カムイラムで、船はいったん停まります。アイヌの神さまの力添えをいただきながら、希い紙に想いを書き連ね、緑に光るカプセルに封じます。
阿寒湖の神さまに祈りを捧げながら愉しむ遊覧船の旅
みんなの想いをのせて、船はピリカ・ラム(願いの場)へ進みます。あわせて1000メートルにも及ぼうかという6本のラインに、およそ3000個のまりもをイメージした球が輝いている、幻想的なピリカ・ラム。
この願いの場で、手元の光球をきらめく湖面に浮かべます。
写真:ピリカ・ラムに浮かぶ夏希灯の明かり イルミネーションが闇ににじむ
湖岸のランタンや、遠く近くの緑の光球が湖面をやさしく照らし、ホテルの灯りが夜にきらめきます。目を空に転じれば、降るような星空も見えるかもしれません。
船は湖面の光の周りを旋回するので、どの席に座っても、あらゆる角度からの景色が楽しめます。
船の中では、アイヌのふたりの恋にあやかり、パートナーとともに桃色に輝く球に手をかざして夢を託す「恋希灯」も行われます。ふたりの気持ちがしっかりと寄り添うひとときになりそうですね。
写真:恋希灯と幸せそうなふたりの笑顔 2017年に行われたイベント「夏婚式」にて
湖に浮かぶ夏希灯の明かりと希い紙の行方
クルーズ船が帰途に着くころに、浮かんだ緑の球に向かって小さな船がつどいはじめます。船が拾い集めた希い紙は、丁寧にまとめられ、秋のまりも祭りにあわせて阿寒岳神社に奉納されます。
写真:まりも祭りの厳かな行進 この祭りの日にあわせて希い紙が阿寒岳神社に奉納される
地域の力の結集とプロのもてなしが好評な夏希灯
阿寒国立公園の指定80周年を記念して、2014年に始まった阿寒湖まりも夏希灯。夏の阿寒をお客さまに楽しんでもらいたいと、各ホテルや船会社なども力をあわせて運営しているそうです。地元を挙げての催しであることも評価され、地域の活力を生み出す催しを表彰する2017年のふるさとイベント大賞では、優秀賞を受賞しました。
写真:緑に染められた湖と夏希灯の遊覧船「ましゅう丸」
2017年までの4年間、8カ月の開催期間中に延べ32,309名の方が、印象的な夜の湖を旅しています。
接客のプロであるホテルマン・ホテルウーマンがスタッフを務めていることもあり、もてなしが素晴らしいと好評な夏希灯。まりもを表現した緑の球が浮かぶ幻想的な光景とともに、忘れられない夏の思い出の一幕として、心に刻まれることでしょう。
(取材・文:なかおかともみ)