大分県別府市。源泉数・湧出量双方で日本一の湯の町に、新しい貸切の温泉が2021年1月に誕生しました。
昭和初期に近くにあった大仏にちなんで、「ゆめひのきの湯 大仏温泉」と名付けられた新しい温泉は、新しく考案された源泉を薄めずに冷ます装置「ゆめひのき」を使った、源泉100%の温泉が楽しめることが特徴。
そんなゆめひのきの湯「大仏温泉」について温泉マイスターにしてオーナーの山村尚志さんにおうかがいしました。
写真:30年ほど前まで近くにあった別府大仏にちなんでネーミング。オリジナルの源泉冷却装置で100%源泉かけ流しを実現した貸切湯「ゆめひのきの湯 大仏温泉」
地域住民の共同湯を貸切湯としてリニューアル
ゆめひのきの湯 大仏温泉(=以下、大仏温泉と表記)があるのは、別府駅の北西約1㎞、別府公園や別府市役所のすぐ近くにある別府市街です。
大仏温泉の前身はオーナーの山村尚志さんの祖父が昭和20年代に建てた共同温泉「天満町1区温泉」。地域住民の共同湯として生活に溶け込んだ温泉でした。
ネーミングの別府大仏は1928(昭和3)年に建立され、1989(平成元)年までの71年間鎮座していました。
鉄筋コンクリート製で像高24m。奈良の大仏の像高が18m、鎌倉大仏が11.3mですからその巨大さは、当時は東洋一ともてはやされ別府でも人気の観光スポットだったそうです。
写真左:昭和3年創建当時の別府大仏。左端には山村さんの曾祖母様が写っている。写真右:横から見た別府大仏
おんせんニュース(以下おんせん):近隣住民の共同湯(組合湯)から貸切営業に切り替えたきっかけや理由は?
山村さん:大仏温泉の前身である共同湯「天満町1区温泉」は昭和50年代に立替えられてすでに40年以上になり、老朽化していました。
この温泉を絶やさず今後も将来的に長く続けて行きたいと思い建替えることにしました。
しかし組合員は少子高齢化で減少傾向。建物だけ新しくしても将来的に維持存続していくことは難しいと思われまして。
それでカップルや家族などプライベートな少人数でゆっくり入浴したいという最近のニーズなども踏まえ、昼間(当面11時30分から17時30分)は貸切湯、夜は組合員専用とする運営方法で新しいお客様にも楽しんでいただく方法としました。
63℃の源泉を新温泉冷却装置「ゆめひのき」で短時間で適温に!
おんせん:温泉冷却装置「ゆめひのき」に興味があります。その仕組みについて教えてもらえますか?
山村さん:「ゆめひのき」は檜製温泉冷却装置で 、私がオリジナルで考案したものです。
底に無数の小さな穴が空いた檜製の浅い木箱状のものに、上から熱い源泉を流しこむと雨だれのように下に落ちていきます。
これを2段、3段と重ねることにより一気に源泉を冷やし適温に近づけることができます。
写真:山村さん考案の檜製温泉冷却装置「ゆめひのき」
うちの源泉温度は冬場で約63度位ですが、「ゆめひのき」で約47度~48度位に冷却できます。
それを湯溜めに溜めて湯船に流し込むことにより湯船での湯温は約40度前後の適温に保つことができる、つまり一切加水ぜずに 源泉掛け流しの温泉を提供できます。
この冷却装置「ゆめひのき」は湯温を下げる効果に加え、湯に檜の香りが付くプラス効果もあります。
現在特許庁に実用新案登録を出願しており、数か月後には登録される予定です。
お客とお客の間隔を必ず30分以上あけることでお湯も換気もリフレッシュ
おんせん:湯船のタイルの色づかいが可愛いと思います!
建て替えるにあたり、建築や内装でこだわったり遊んだりした部分がありましたらぜひお教えください。
山村さん:入浴客は女性が比較的多いことを意識し、妻のアイデアで小さな可愛いタイルを敷き詰めるデザインとしました。
2室のタイルの色は碧色(あおいろ)と茜色(あかねいろ)になっています。
碧色のタイルは別府湾の碧色、茜色タイルは鶴見岳に沈む夕日のあかね色と、別府を代表する景観をイメージしています。
また「碧の湯」は坪庭を眺めながらゆったり入浴できるように窓を低くした坪庭付きの湯としました。
写真:大仏温泉「碧の湯」。坪庭を眺めながらゆったり入浴できる
おんせん:貸切湯とのことですが、九州によくある、お湯をお客さま毎に入れ替える形式なのでしょうか?
山村さん:お客さま毎に入替えることはしていませんが、常時湯舟に源泉を掛け流しています。
湯船にいっぱいになったお湯が溢れている状態です。
あえてシャワーを付けずに、湯舟の湯を汲みだして使ってもらうようにしているのでどんどん湯舟の湯が新しいお湯に入れ替わっていきます。
かつ、前のお客様が入浴終了後、次のお客様の入浴開始まで30分以上間隔を空けているので、湯船のお湯はほとんど新しいお湯に入れ替わっているといえますよ。
お肌の保湿成分を多く含みながらクリアなくせのない源泉
おんせん:大仏温泉の泉質やPHをお教えください。
山村さん:透明でクセのない単純泉ですが、成分総計は720mgあります。成分はナトリウムイオン、塩化物イオン、炭酸水素イオン中心です。
おんせん:ナトリウム炭酸水素塩泉(重曹泉)寄りなんですね。
山村さん:PHは最新(平成28年)の分析によるとほぼ7に近く中性ですが、その前の分析では8.0で弱アルカリで、多分現在は触った感じが少しアルカリに傾いている感触です。
肌を保湿するといわれているメタケイ酸も150mg以上含まれています。
おんせん:「ゆめひのき」のおかげで、この保湿成分も薄まらないのはとても嬉しいですよね。
写真:こちらは「茜の湯」。源泉100%の貸切湯なのに600円(※2021年2月)で入浴できる
別府といえば、の「熱め」ではなく適温の40℃に調節
おんせん:別府の温泉は、他の地域から訪れる旅行者には激熱に感じる場合もあるほどの熱めのお湯で有名ですが、大仏温泉の湯舟のお湯の温度はだいたい何度位に設定していますか?
山村さん:別府温泉のすべてが激熱というわけではありませんよ(笑)
多くのホテル、旅館、民間入浴施設などは温度調節されています。
でも、昔から地域に点在する地元の人が日常的に利用する共同温泉は熱めの所が多いようです。
ゆめひのきの湯大仏温泉では、源泉冷却装置ゆめひのきを使うことによって、湯舟の温度を入浴適温の40度前後に保つよう調節しています。
おそらくどなたでも加水せずに入ることができるのではないでしょうか。
なお、お客様自身での湯温調節もできるようになっていて、熱い湯が好きな方や冬場など、カランをひねれば冷ます前の熱い源泉が直接加えられるように工夫しています。
また小さなお子様などさらにぬるいお湯で入りたいお客様は、水道で加水して湯温を下げられるようにしてあります。
そうなると源泉100%ではなくなりますが、お客様の事情で加水し源泉100%でなくなるのはやむを負えません。
OPEN1か月未満ですでに週末は家族連れで埋まる人気
OPENしてまだ1か月未満(2月中旬現在)の大仏温泉ですが、早くも週末の営業時間中は2室とも埋まっているとのこと。
コロナ禍の現在、観光客らしい人はほとんどいなく、市内の方々中心なのに、です。
客層は週末はご夫婦や子供連れの家族中心とのことですが、平日におひとり様でゆっくり源泉かけ流しの湯を楽しんでいく人も多いそうですよ。
早くも大仏温泉を訪れた人からは
「ツルツルすべすべしっとり感があり、ほのかに檜の香りがして癒される」
「熱くなくゆっくりのんびり湯舟に浸かれた」
と好評。昔からのお付き合いの組合員からも
「全く加水せず入れるので泉質の良さを肌で感じられる」
と喜ばれています。
それに今までは熱い源泉を冷ますために大量に加水していた水道代が節約できるという嬉しいメリットもあるそうです!
写真:週末には早くも近隣からの家族連れで2室が埋まる
温泉マイスターのオーナーにきいた大仏温泉近くのおすすめ
オーナーの山村尚志さんは、温泉マイスターの資格をはじめ、別府八湯温泉道名人、九州温泉道泉人でもあります。
また、国際温泉観光都市別府の歴史文化を伝える街歩きガイドとしての活動も行っており、豊富な温泉に関する知識や経験、観光情報などを観光客や温泉好きへと伝えています。
そんな山村さんに大仏温泉近くの観光スポットやグルメスポットを紹介してもらいました。(紹介文は山村さんより)
・大仏温泉の名称を付けるきっかけとなった近隣の別府大仏跡地にある大仏建立のモデルとなった10分の1のミニ大仏
・100年の歴史がある別府公園
梅や桜のお花見スポットとしても親しまれています。
・ビーコンタワー展望台
360度のパノラマで別府市街が一望できます。
・古民家ゲストハウス「インブルームベップ」
戦前の純和風建築を再生した人気のゲストハウス
・茶房信濃屋
戦前の純和風別荘建築を珍しい曳家して再生、郷土料理が美味しい。
・珈琲専科グリーンスポット
東京からもファンが来るという超人気コーヒー専門店
コロナ禍の真っ最中でのオープンとなった大仏温泉ですが、検温、アルコール消毒、三密対策(貸切利用、浴室24時間換気、貸切時間の間隔30分以上空けてお客様同士の顔合わせ回避)など基本的な対策を取っています。
写真:大仏温泉の看板
「適温の温泉にゆっくり浸かることで、コロナ禍での生活でたまったストレスの緩和リラックス効果が期待できるのではと思っています。
オリジナルの新源泉冷却装置「ゆめひのき」で瞬時に適温にした、メタケイ酸豊富でくせのないクリアな源泉100%のお湯が味わえる大仏温泉。
この良質で新鮮な温泉をぜひのんびり味わっていただきたいと思います!(山村さん)」
魅力的な立地と共に檜の香りの新しい貸切温泉をぜひ楽しみたいですね。
(取材・文:やまめタグ、編集:hotspring727)
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