宮城蔵王のふもと、遠刈田温泉の温泉街のなかにある、一軒の老舗そば店を訪ねました。そこで出会った、初めて食べる味のおそばと、初めて聞く名前の山菜のお新香のお話です。(ちなみに、筆者は信州出身。そばは食べ慣れていると思っていたけれど……!?)
さて、天気の良いお昼時。暖簾をくぐり、こぢんまりとした店内へ。鴨そばが名物とのこと。暑い日だったので、冷たい鴨そばを頼みました。
運ばれてきたのは、かけそば用の器に入った温かいつけ汁と、平たいお皿に盛られた、十割そば。冷たいお蕎麦を温かい汁につけて食べる、いわゆる鴨せいろ形式ですが、器からして、ラーメンのつけ麺のようにも見えて、なんだか斬新!
そばの色は濃いめ、太さは太めでボリューム感があります。早速、そばをつけ汁につけて、お味は……?
あ、甘い!
そう、このつけ汁、とっても甘くてコクがあります。日本人なら子供から年配の方まで、誰もが好きな味ですね。
太めのお蕎麦ともよく絡み、ひと言で言って、おいしいです。それと太めの麺が、なんだかもちもち……。ふわふわ、もちもち……もぐもぐ……夢中で食べてしまいます。
写真:名物の鴨そばについている小皿が……
それから、鴨そばですから、もちろん鴨肉が入っているのですが、見た目は、いわゆる鴨南蛮チックな、3~4枚、少し厚めにスライスされたのが乗っかっている、のとは全然違います。とっても、薄くて、小さくて、ヒラヒラっとした鴨さんが、たくさん浮かんでいるという感じです。
最初は正直、「えっこれ……?」と思ってしまったけれど、食べていくうちにモチモチ麺とのバランスがとても良いことに気づきます。気張って鴨肉を噛み締めるということをしなくても、麺やつゆと一緒に頬ばれるので、どんどん食べ進めてしまいます。
鴨肉のほかには、キャベツか白菜のような野菜が結構大胆に入っています。ネギじゃないんだな、と思いながらあまり気にせず完食。野菜もたっぷりとれてよかったです。
それから、特筆すべきはこれ。箸休めのお新香「ウルイ」です。
パッと見では「野沢菜かな……?」と思いましたが、季節的にちょっと遅いし、見た目もやっぱり違うような。
ひと口食べてみると、ほどよい歯ごたえがありながらも、さくっと噛み切れる。これは野沢菜では、ない。
野沢菜でないとすると、じゃあ何だろう?と思い、もうひと口ふた口食べてみると、ちょっとした粘り気も感じられます。しゃっきり&わずかに粘りの絶妙な食感、絶妙な味わいのお新香。思わずぽりぽりとむさぼってしまいました。
帰り際、お店の方に聞いてみると……
「ウルイ。知らない?」(えっ知らないの?という顔をされる)
いやー、知らなかった~!調べてみると「ウルイ」は5月中旬~6月が旬の山菜で、今年は例年より少し早めから出ていたようです。
―あの、お新香がとっても美味しかったんですが。いつ頃まで出されているんですか?
「ウルイはだいたい5月中旬~2週間くらい。いつも、その時あるもので作ってるから、3日とか、1週間くらいとか、その時々で。きゅうりとか、二十日大根、ふきというときもありますよ。全部うちの畑にあったものをとってきて。その量によって作る量も変わるからね。ウルイは一度さっとゆがいて、それから塩でもんで。それだけなんだけど、まあ加減が人によって、好き好きあるからねぇ」
―畑からとってきて、手作り!都会にいたらなかなか味わえない贅沢なことですよね。味付けも塩だけだったとは。あの歯触りといい、熟練の技ですね。恐れ入りました!ちなみに、つけ汁に入っていた野菜は何でしょう?
「キャベツとか、あとシドケ(山菜)、ミズ(山菜)……どれもその時とれたものを入れてますよ」
―知らない名前がまたどんどん出てきた(笑)。じゃあ、季節を変えてまた食べに行きますね!!
名物の鴨そばは、30年くらい前から出されているそうです。当時は天皇家に献上するような貴重な食材だったのですが、知り合いの猟師さんからもらったのをきっかけにお店で出すようになったそうです。
写真:遠刈田温泉の名物店
モチモチ麺の秘訣は、これまた畑でとれる◯◯◯を入れているからだそうですが、これは企業秘密とのこと!
四季折々の野菜・山菜も楽しみな、名物そば。ぜひ、現地で味を確かめてみてくださいね。
(取材・文:前田ゆかり)
宮城県刈田郡蔵王町遠刈田温泉本町18
TEL:0224-34-2527
営業時間:11:00~19:00
定休日:水曜