団体受け入れOKの大規模ホテルが並ぶ雲仙の温泉街の中では、雲仙福田屋は比較的小規模の旅館だ。
それゆえ開業当初から個人客に寄り添ったしつらえやサービスにこだわっていた。
「民芸モダンの宿」のキャッチフレーズどおり、ラウンジで到着客を出迎えるのは、黒光りする古材の空間に、魚の彫刻がついた自在鉤つきの囲炉裏。
客室はその落ち着いた色合いはそのままに、モダンな清潔感ある雰囲気の「ハイカラ」ルームが人気だ。早い段階で空気清浄機を導入するなど、細やかな気遣いは宿泊客のニーズをいち早くとらえていると思う。
そんな雲仙福田屋に2017年2月9日(「ふく」の日)にOPENしたのが「新館・山照」だ。
出来たばかりの「山照」を、スタッフの内藤さんに案内してもらった。
「山照」は駐車場に直結している。宿泊者はまずは、館内から直結している本館のフロントでチェックインすることになる。
館内には、陶板のように見えるこんな感じのアートが飾られている。キャンバスに重ね塗りしてこんな風合いになるのだそうだ。
1Fにあるのが個室の食事処。「山照」のラベルの酒が並ぶ。諫早市の酒蔵に作ってもらったものだという。
調理場が廊下からガラス越しに眺められるようになっているところに自信を感じる。今はまだ午前中だというのに、もう夜の仕込みのために料理人が忙しく働いていた。それだけ手の込んだものをいちから手作りしているということだ。
さらに1Fには鉄板焼「桜橋」もある。雲仙温泉で鉄板焼きは初だという。2012年に牛肉日本一に輝いた長崎和牛をはじめ、島原半島の有機野菜をいただける。海の幸は橘湾などの地の魚が楽しみだ。メニューには手書きで在来種の野菜の説明もある。
わずか8席という贅沢な空間、料理人の背後にある大きなガラス越しに桜の大木を望む。
桜は「湯川」と呼ばれる小川の対面から枝を広げている。
「川の向こうは、国の土地……国立公園なので一切触っちゃいけないことになっているんですよ」
つまり温泉が流れる小さな川を隔てて、雲仙天草国立公園。そんな雲仙の手つかずの大自然と対峙しているのが、この山照なのだ。
「この葉っぱがない木も桜ですよ、あれも、あのへんも全部です」
桜の大木は、自然のままのもの。自然のままだから、この桜のおそらく兄弟、あるいは子孫かの桜も湯川沿いに断続的に枝を広げていて、今年2017年には、おそらく山照から初の花見となるはずである。
客室を見せていただく。露天付客室の露天は、国立公園の手つかずの自然へと面していた。
さきほどの鉄板焼「桜橋」から見えていた桜の枝がここからも眺められる。つまり湯船に浸かりながら桜を楽しめる「花見露天風呂」なのだ。
温泉はもちろん源泉かけ流し。雲仙温泉ならではの濃い硫黄泉をぜいたくに独り占めできる。
湯上りにはテラスに長椅子がある。思わずここでビール飲みたいな~、と妄想したように、やはりルームサービスはよく出ているのだという。それ用に予め、ワイングラスにシャンパンフルートなどが用意してある。納得だ。
もともとアメニティ充実の福田屋ではあるが、山照の客室の充実っぷりには思わずはしゃいでしまった。
この「福-FUKU-」はもっともグレードの高い客室であるが、洗面ボウルが2つある。
それだけでなく、アメニティが男女別に用意されている!(男女別アメニティは初めて見た)
そしてこの手鏡。周りが発光するようになっている。先日訪れた「森の音」三面鏡手鏡も嬉しかったが、この光る「女優手鏡」ときたら!自分の家にもほしくなってしまう。
寝室がまたすごい。
なんと寝ながらテレビが見れる。リビングには53型もの大きなテレビがあるにもかかわらず、だ。
この角度、私なら寝落ち確実w
そして……さて、これは何でしょう。
答えは……スピーカーでーす!ランプみたいでおしゃれ!
自分のスマホをつなげばスマホに入ってる音楽を楽しめるのだというすぐれもの。(好きな音楽、といってもアナタ、デスメタルを大音量でかけたりするのはそぐわないことですわよ)これもうちにほしい。
モノばかりでなく、ベッドも広いし(このFUKUはダブル。ほかの部屋もセミダブル)、枕の上にも空間がある。
スマホとかタブレットとか、漫画本(昔の編集部仲間にゴルゴ31全巻持って日本縦断マイカーの旅にでた強者がいるのだよ)とか、アロマオイルとか、連れてきたぬいぐるみさんとか、いろいろ安眠の友を置けるところがとても気が利いている。
こちらは比較的リーズナブルなお部屋。雅な日本建築に見られるような丸い窓から広葉樹に覆われた雲仙の山が見える。紅葉の時期の風景はたいそう素晴らしいそうだ。
客室に広い露天ついてるから大浴場いらないんじゃない?
なんて思うなかれ。
山照の宿泊者専用の大浴場「薫風の湯」がこれまた素晴らしいのだ。
まるでカメオとか、オパールのブローチのような優雅なオーバル(楕円形)の湯船には、雲仙のにごり湯が満ちている。
真ん中にすえられた湯口から湯が絶え間なくあふれるように注がれる。
楕円形のまわりを石が敷き詰められた浅い湯船が……と見えるがこちらは普通の水。でも、静かに空を映すその水面の視覚効果で「インフィニティ露天」風に見えるのが、にくい演出だ。
ただただ雲仙の山々と自然と、そして湯。なんだかスピリチュアルな感じさえ漂う温泉だ。
最後に、最上階・山カフェ「力」を訪ねた。力とかいて「リッキー」と読む。
ここは、山照で唯一日帰り客も利用できる場所だ。
雲仙の山々を望むオープンエア席は、冬の名残の大きなストーブがあるものの、天気も良くすでに春爛漫だった。
写真:夜の「リッキー」。バーとしても楽しめる。
テラスの端では、桜のてっぺん部分を見下ろすことができる。4月には桜カフェとして花見ランチ気分も楽しめるだろう。
写真左:桜の枝を見下ろす。
写真右:名物の「どろりそば」。
こちらでお昼をごちそうになる。
ずっと食べてみたかった福田屋名物の「ハイカラオムハヤシ」をオーダー。
とろとろの卵に、柔らかく煮込んだ肉の塊がいっぱい入ったデミグラスソースがあう。さすが人気だけあって美味。
スープも細かく切った野菜がたっぷり入った具沢山で、野菜の種類も豊富で彩よいサラダとあわせて、野菜もたっぷりとれるのが健康的だ。(スープ・サラダ付で980円)
こちらのカフェでは「どろりそば」という郷土料理もおススメだという。
ゆでたてアツアツの十割そばをゆで汁ごと丼にいれて供するもので、ゆで汁が十割蕎麦らしくドロリとしているから、どろりそば、というんだそう。
いってみたら、そばつゆとそばをいっぺんにいただける、という発想の面白い郷土料理だ。
出雲そばの割子のように薬味とツユを丼の中に入れていただく。
贅沢な山の幸の天ぷらがついていて、それを丼の中のどろりのそばつゆにからめていただいてもよい。
内藤さんが食べているのをみて、意地汚くもほしくなる。湯上りだとして、あのどろりそばつゆ付の美味しそうな天ぷらはさぞかしビールの友にいいだろうなぁ、などと想像する。(天婦羅どろりそばは1250円、ランチ限定)
この「力」は、夜はオープンエアのバーとして各種カクテルなども楽しめる。エクストラコールドが楽しめるところはこれから夏にかけてたまらない。夜遅くまで軽食やホットケーキなどを出していることもあり、若い人などは小腹を満たしに来ることもあるんだそうだ。
室内では写真展などの企画展も開催されることもある。
さて、この山照のネーミングについて、
「雲仙を訪れる方々や雲仙の山々を四季折々の豊かな光が照らしてくれますように……」という願いが込められているのだと聞く。もちろん、客室に温泉にカフェに、とすべてについている、雲仙の山々を望む開放感たっぷりのテラス、を象徴しているのもある。
山照のテラスは、客室にはソファやカフェテーブルがしつらえられ、露天にもベンチが用意され、長い時間をそこで過ごしたくなるような寛げるつくりになっていた。
山は古事記の昔から神として崇められることが多いパワースポットである。雲仙のパワーを照らされて元気になれる場所、というのもあるかな、と感じた。
http://www.fukudaya.co.jp/
長崎県雲仙市小浜町雲仙380
TEL: 0957-73-2151
●山照 宿泊料金例
鉄板焼きDinnerプラン
1泊2食 2名1室の1名あたり 26,300円~
標準チェックイン・アウト
15:00/11:00
●山カフェ「力」
営業時間 11:00~22:30(LO)